「嗤う伊右衛門」

京極作品初の映画化である。さすがは蜷川監督、と言いたいところではあるが、これは予想外に普通っぽい映画であった。原作をオーソドックスに映像化しているという印象。もちろん、それは決して低い評価というわけではないのだが。


あの原作の内容を全て映像化すると、それは不可能なことだというのはよくわかる。しかしながら、原作のエッセンス、いやダイジェストの映像化を観たなぁという気がする。そこが残念なところか。おそらく、原作の「嗤う伊右衛門」を読まずに、あるいは「四谷怪談」自体を知らないでこの映画を観るのは非常に辛い体験になると思う。一見ではちょっとわかりづらい。ただ、これを二度三度と見て行くと、あぁ、ここでの台詞は後でこう繋がるのか、と思ったりするとこが出てくるのかもしれない。
唐沢寿明はさすが。無難に伊右衛門を演じており、演技者としての巧さを感じさせる。岩役の小雪は、ちょっと固かったかな。台詞がまだこなれていないというか、読んでる感が少しある。雰囲気はいいんだけどね。それと顔のメイクはもう少し大きくてもいいような気がするのだが。また、その岩が激昂して狂気にいたる様ももう少し迫力が欲しいところではある。それでないと、岩の「うらめしや」が生きない。この作品で最もいいなぁと思った役者は、香川照之。又市役にぴったりである。過去に同じ(といっても微妙に違う)キャラを田辺誠一が演じているが、ちょっと違うなぁと感じていた。しかし、この香川又市はよい。イメージどおり。しかも2時間という尺の中で原作を収めるために、狂言回しとしての重要度は高くなっている。この香川照之で「巷説百物語」を映像化したらいいのにと思うのは、私だけではないだろう。椎名桔平は言うこと無しの狂いぶりである。
ラスト。骨だけになってしまった民谷家。そこに残された箱に中にある死体。原作では、伊右衛門の顔も白骨化がやや進み、口の肉が剥がれ落ち歯が剥き出しで、まるで嗤っているかのように見えるというオチなのだが…もっと綺麗でしたな。それはそれでよいか。
無難な仕上がり。ただ、少しだけ物足りなさを感じてしまったのである。

「嗤う伊右衛門」 03東宝 監督:蜷川幸雄 原作:京極夏彦 CAST:唐沢寿明、小雪、香川照之、池内博之、椎名桔平 他